どうぶつ村は人と動物が共生するためのルール作りの基盤を作り上げていきたいと考え、福岡市東区を拠点に
地域ボランティア活動やドッグランの整備を進めております。

理事長エッセイ ドッグラン伝道話し 「ワンワン伝道」Part1

どうぶつ村コラムには、土岐村長(どうぶつ村理事)のコラム、楢崎理事長のコラム、湧き出石、エッセイとありますが、このたび「ドッグラン伝道話し」として各ドッグランでの出来事を中心に、(すでに、フェイスブックでは写真や解説スタート)皆さんに聞いていただきたい話題を理事長により掲載することになりました。
新シリーズとなりますので是非ご一読ください。

「ワンワン伝道」Part1

福岡空港の滑走路に並行して走る県道の脇に
「博多の森ドッグパーク」が誕生して5年が過ぎた。
現在では土日、祝日ともなると30数台は可能な駐車場が満車状態となり、犬の数は40頭を超える日がある。
家族で来場される方々もあり犬の数より人の数の方が常に多い。

そんな博多の森で先日こんな出来事があった。
いつものように30分前にはゲートを開けて準備をし、パーク内のゴミや石ころを点検回収していると、パーク内中段のドッグラン隅にテニスのボールが転がっていた。
2ヶ月ほど前、犬に投げ遊ばせていたボールが屋根に上がってしまったらしく飼い主から報告は受けていたのだが、今年春いちばんの風でも落ちてはこなかったボールだった。
その週の頭の日曜日、屋根に上がったままのボールは確認していたし、その日以降も強い風が吹いた記憶はなかった週末の土曜日である。
とりあえず転がっていたボールを回収し準備を完了した。
その日も時間前から車が次々と来場し、犬たちは喜び勇んで車から降りてきた。
何人目かの受付に、いつもはお母さんが連れてくる馴染みの犬の顔があり、送り迎えの役回りを努めるお父さんが、その日は一人で犬を抱っこして立っていた。
「今日、お母さんは?」と問いかける私に、ただニッコリと微笑むお父さん。
それ以上には何も聞かず次から次にやってくる犬たちの受付をこなしていると、別の常連さんが来てドッグランの中を見るなり、『あっ、』と声を漏らした。
『・・さんご主人がみえていますね。何て、声かけようがないのよね。』
どうかしたのですかと問う私に、『お母さんがなくなったのよね。私、お葬式に行ってきたのよね』5年前の開場時からの常連さんで、今週日曜にも顔を合わせていたし元気だった。
今週来場された翌日、月曜日に犬と二人だけの時間帯に脳内出血により急死されたということであった。
その日はお父さんには声の掛け様もなかった。
次の日も見えたが、「お聞きしました、驚きました。」としか言えなかった。
ただ、昨日のボールの一件に触れ、実はもっと前にお母さんにも同じように屋根に上げてしまったお気に入りのボールがあり、落ちずに今日に至っていること。
愛犬のために、何とかしてあげたいと思う気持ちが、ご自分が探しているボールは見つからずとも、同じところにあったボールを落としてくれたような気がしてならず、その旨を伝えた。
話しながら言葉に詰まった。
冬、木枯らしが吹く誰も来ないような時でも愛犬を連れてみえていた。
誰にも愛犬との思い出話しはたくさんあるが、犬は残されても飼い主との想い出は語れない。
犬は待つことしかできない。
お父さんと遊びながら、ボールを懸命に追いかけるその黒い目でお母さんとの楽しかった日々を回想しているのだろう。
いつか帰ってきてくれると待ち続け、やがて自ら旅立ち逢いに逝くのであろう。
お母さんの傍に。

合掌。

2013.3月

 
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